キャプション・物語

−0−


蝉の鳴き声が響く初夏の空、幻想郷は喧騒に包まれていた。
スペルカード盗難事件。
朝に見ればカードがなく、夜にはひょっこりと持ち主の元にカードが帰る、
そんな不可思議な事件が幻想郷を騒がせていた。




−1−


人里離れた辺境の地、博麗神社。

普段は参拝客など居ない開店休業が目立つ神社だったが、
昨今は事件の犯人や自らのカードを探す妖怪の来訪により、
近年稀にみる賑わいをみせていた。

「まったく、これだけ人が来るのに、どうしてお賽銭が無いのかしら?」

もっとも、そんな妖怪に信仰心があるはずもなく、
ただ忙しいだけの、草臥れ儲けに過ぎないが。

「それで、貴女は事件解決には乗り出さないの?
 いまのままだと私が困るんだけど。」

「参拝に来る人をほおっておくわけにもいかないでしょ?
 ていうか、誰の声?」

少女が声のする方へ顔を向けたところで、
辺りは事件を追う妖怪の山。

ぱっとみただけで探し出せるわけもなく途方に暮れる。

「今回は忙しいから、魔理沙あたりが解決してくれると嬉しかったんだけど。
 事件の方から呼びにくるとは、困ったものね。」

騒ぎの最中にある神社をたち、
少女はいつも通り、当てもなく勘を頼りに出発したのだった。




−2−


「まてーカードどろぼー!」

「残念ながら私は泥棒じゃないんだぜ。
 それに一度も盗んだことはない… って今日説明するのは何回目だったか」

森に住む魔女は、日増しに増える追手から、
その身を隠す事に全力を尽くしていた。

「もう少しで100回ね。 人気者でいいじゃない。」

「こんな騒ぎに巻き込まれるような
 人気者を目指したつもりはないな。」

大袈裟に肩をすくめ、被害者である事をアピールし、
近くにいた追手に気づかなかった事を後悔した。

「そうなの? 私にはその人気が少し羨ましい。」

「それなら、事件の黒幕の役でもやってくれると
 嬉しいんだが。」

そういいながらスカートを翻し声の方に振り向くが、
既に誰の姿もなく。

「なんだなんだ、次は幽霊でも現れたのか?」

辺りを見回した所で、姿形も見当たらず、
やれやれと言った表情で今後の動きを考える。

「まったく、これはどこかの黒幕を捕まえないと、
 冤罪で暫く大変になりそうな雰囲気だな。」

黒幕を捕まえ、平穏を取り戻すべく、
白黒魔女は飛び出した。




−3−


「カードが見つかった…ですか。」

「その通り。 朝になったらカードが無くなって、
 夜になったら元の位置に戻っていたわ。」

湖の畔にある洋館。
館の主は"朝"から非常に機嫌を損ねていた。
それもそのはず、自らのカードが一時的とはいえ盗まれたのだ。
プライドの高い彼女が角を生やさぬ訳がない。

「まったく人が走り回った挙句に館に勝手に戻ってるんですから、
 私としては狐につままれた気分ですね。」

吸血鬼の寝る間に、朝からカード探しに奔走していた従者は、
元の位置に戻ったカードを見ながら溜息をつく。

「あぁ、なるほど。 そういうことだったのね。」

「どういう事ですか?」

「狐につままれたって話よ。」

突如何かに気づいた幼き悪魔は、
先ほどまでの機嫌の悪さとは打って変わって、
余裕に満ちた笑顔で席に座る。

「もうこの事件への興味は薄れたわ。
 咲夜はいつもどおり夜食の準備でもしてくるといいわ。」

「あら、もう宜しいのでしょうか?」

プライドを気にする主人が、
自らのカードを盗んだ犯人を見逃すとは珍しい。
そう思いながら、メイドはその場を離れた。




−4−


その場所は玉で溢れていた。
統一感の無い様々なスペルが飛び交い、
中にはどこかで見た覚えのあるものもチラホラとまじる。

全てのスペルは、たった一点から紡がれる。
人間はおろか、妖怪をも嘲笑うかのよう集められたカードの山々。

泥棒による札遊びは始まったばかりだ。
たった一人が引き起こすお祭り騒ぎ、積み上がる玉の中心に「彼女」はいた。




ルートに戻る